大阪の中学受験は「最難関校」一色に見えます。浜学園、希学園、日能研、馬淵教室──。
どの塾も「灘」「甲陽」「東大寺」「西大和」「大阪星光」「四天王寺」「洛星」「洛南」を頂点としたカリキュラムを軸に据え、情報発信もそこに集中しています。
しかし実際には、「最難関を目指し準備を始めたものの受験時にはそこまでの学力に達しなかった。けれども、しっかりとした進学校に入れたい」というご家庭の方が圧倒的に多いのです。
にもかかわらず、”中堅〜上位中高一貫校対策”の情報は極端に少ない。
なぜそうなっているのか? そして、どうすれば本当に点数を伸ばせるのか?
解説します。
・大手塾が触れない「中堅校対策のリアルな情報」を掘り下げつつ、
・「届きそうで届かない層」の子どもたちが確実に点数を伸ばすための現実的な方法を、実際の指導事例を交えて紹介します。」
六人部鉄平(京橋数学塾A4U塾長)。大阪市内の学習塾で講師としてキャリアを始め、現在は京橋駅前で小中高生対象の進学塾を運営。講師歴25年。暗記学習に頼らない指導が得意です。少し考えりゃわかることは暗記不要。小学生の志望校合格率は97%(ぶっちゃけ落としたことがほぼありません)。マンガ好き。
なぜ「中堅校対策」は情報が少ないのか
まず関西の大手進学塾(浜学園・日能研・希学園・馬淵教室など)は、伝統的に「灘・東大寺・洛南・甲陽」などの最難関層をターゲットとしてカリキュラムを組んでいます。
理由は単純です。その学校を志す生徒が多くブランド価値も高いからです。長年のノウハウも蓄積されていますし生徒も集まる、するとまた新たなノウハウが蓄積される。この量産体制ですからウリにしない手はないということです。
当然塾から発信される情報も難関校を軸にしたものになります。受験情報も同様の理由でそういった傾向が強いです。営利企業なので、難関校を中心にした情報になるのは自然と言えます。
さて、私立中学に通わせる方針のご家庭は受験の準備を始めるのも早いです。受験までには十分な時間があります。目の前に受験が差し迫っているわけではありませんし、我が子の実力も未知数です。
そりゃあ最難関校を意識すると思います。みなさんそうです。「やる前からそこには届かないだろう」と思って準備を始めるなんてことはないですから。
早く準備に入ったご家庭ほど「最難関校!」という気持ちが強いのでしょうし、「うちの子はそんなにできないから…」と口では言っても、「いや、もしかしたら?」と、そんなご家庭もいらっしゃるでしょう。子供は期待されているのです。
そんなこんなで情報のニーズは最難関校に集中していきます。そういった需要があるから大手塾は最難関校の合格者数を大々的にアピールします。そうすると受験情報サイトの情報は大手塾の発信を総合したものになる。その情報を欲しがる多数のご家庭のニーズにも応えている。
でも、そうなると・・・情報を発信する側/求める側の需要と供給がばっちり嚙み合って、中堅校に関する情報が出てきにくい状況の出来上がりです。
大手塾が中堅校の学校別対策をしない3つの事情
①まずはコストの問題です。前述したように、大手塾のウリは最難関ですからその他の独立した学校別講座を開設するほどの余裕がありません。設置したとしても、現状の学力はともかく(!)それほどの受講者が集まらないので採算が合わない。
②中堅校を志望する層は最終決定が遅いのも理由の一つです。くわえて志望校が幅広くなりがちですから、塾としても開講時期や募集のタイミングが難しい。
③近年では映像授業やオンデマンド講座や個別指導塾が普及して「特定校の対策は個別で対応」という形が増えている。そのため塾側も「わざわざ中堅校向けの学校別講座を開くより個別で対応した方が効率的」と考えている。
大手塾のアラカルト的な中堅校対策では点数が伸びない理由
以上の理由から、大手塾で行う中堅校対策は
- 通常授業のなかでフォロー(するだけ)
- 個別指導で補う形が多い(=追加料金がかかる)
- 入試対策講座もいろんな学校がごちゃ混ぜ(=アラカルト)
になるのは当たり前です。
「学力が伸びない」という意味ではありません。ベースとなる実力をつけるには悪いものではありませんし、そこで見つかった課題を克服していけば点数も多少は伸びはするでしょう。
しかし、それで合格できるのか?と言われれば大いに疑問が残ります。
「とりあえず大手塾でスタートを切る」という流れができ上がっているので、大手塾で最難関を目指して早期から準備を始めたものの、実際には受験時にそこまでの学力に到達していない場合はよくある話です。
それがダメだということは全くありません。相手は小学生ですから12歳までにある水準までの成熟を求めても個人差がかなりあります。だから「お前はダメだ」などと追い詰めたりするのはNGですよ。
「点数を伸ばして欲しい」と心から願っている保護者が、実は子どもの学力向上を邪魔してる原因になっていることがよくあるんです。そういうのは見るに堪えません。
胸に手を置いて振り返って欲しいのですが・・・自分が小学生の時代に大人が求めるレベルの要求を完璧にこなせましたか?あなたとお子さんは親子ではありますが、性格も考え方も異なります。自分ができなかったことを子供ができたり、自分はできたことが子供にはできなかったり、それがふつうです。心には余裕を持ちましょう。
話がそれましたが、早期から準備をした子どもたちほど点数が伸びにくい状態になっている可能性があります。
通っている塾ではどんどん授業の内容が難しくなっていく。おとなしく座って真剣に聞いてはいるけどほとんど理解していない。わからねども、塾には行かねばならぬ。。。
そんな子どもたちは、授業中は地蔵のように座って話を聞いているだけ、言わばお地蔵さんモードになっています。
こうなると伸びるはずの学力もほとんど伸びません。授業の内容がほとんど右から左ですからね。
当然、点数は伸びません。
点数を伸ばすための取り組み
難問が出ない中堅校こそ学校ごとの特徴があります。「学校別の対策」をきっちりやれば点数を大きく伸ばせます。
①真っ先に取り組むのは「問われたこと」に答えられているか?
ということです。これは算数だけに限らず全科目について言えることなのですが、自分の答えが要件を満たしているかの確認を行います。つまり、見た瞬間に間違いだとわかるような答えを書かないようにする指導を行います。
がんばって計算した後ほど「できた!」という快感が勝ってしまい、「これ、おかしくないかな?」という意識が薄くなりがちです。
たとえば、「平均の身長が40cm」とか、「500mLしか入らない容器に700mL入っている」だとか「時速6cm」とか普通に考えれば変だとわかるような答えを平気で書いてしまうことがあるんです。
できる限りこのようなことが起こらないようにしなければなりません。相手は小学生ですから、なかなか完璧にはなりませんが注意する習慣を身につけばかなり減らせます。
②試験時間の使い方
時間の使い方も重要です。理想はわかりそうな問題から順番に解くとよいのですが、まぁ前から順に解いても構いません。ポイントは何の手がかりもつかめない問題は思い切って飛ばしてしまうことです。無理くりひねり出したような答えはどうせ間違えてるんですよ。
だから、「よくわからん問題で足止めをくらって、解ける問題をやる時間が無くなった!」なんてこともよくあります。ゲットできたはずの点数がなくなるんですから。入試においては最悪です。わからん問題はスキップが鉄則!意識的に取り組んで身につけるべきスキルです。
③同様の発想で解ける関連問題の紐づけ
くり返しますが、中堅校には学校ごとによく出題されるタイプの問題が存在します。
「大問5は速さの問題と決まっている」という学校もありますので、しっかりと訓練しておけば確実に得点にできます。まずは学校ごとのあるある問題を確実に解けるようにしておきましょう。
同時にやっておきたいのが、問題文は異なるが同様の発想で解ける問題の仕分け作業です。まったく違う問題に見えるのに解こうとすると同じ考えに行き着く。行き着いた先の考え方を整理し問題と紐づけておくと得点アップ間違いなしです。
A4Uでの取り組み
「取り組み」と書くと大層にきこえますが、やっていることは点数アップのための取り組みを生徒ごとに実行しています。
以下は指導ノートの参考例です。





①問われていることに答えられているかの確認
立式や計算、記述内容はもちろん、授業中の受け答えも確認しています。こちらの質問に対してズレた回答が返ってきた場合はそのたびに指摘します。何を問われているかをしっかり意識させます。
②時間の使い方の確認
・問題を解いているときにどこに何分使ったかの計測
・歯がたたない問題に無駄に時間を浪費していないか
・検算や見直しをする時間を確保できているか
外から誰かが実際に見ていないと気づけない、答案を見ているだけではわからない、そういった自力では伸ばしにくい部分を指導しています。
③学校別の対策
生徒ごとに復習用のノートをつくっています。どのような発想で解くのかを重視し、解説も可能な限りその生徒が理解しやすそうなものを選択しています。
同時に解説した問題とおなじ考え方で解くことができる試験に出そうな問題を指導したり紹介したりもしています。
